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Special Talk Session #60

『終のステラ』スペシャルインタビュー
イラストレーター・SWAV×ディレクター・佐雪隼

2021年から2022年にかけてKeyが贈り出すキネティックノベル作品群の第3弾となる本作『終のステラ』。田中ロミオさんがシナリオを手がけ、滅び行く世界を旅する人間ジュード・グレイとAe型アンドロイドの少女フィリアの交流を描いた作品となっている。今回は、ディストピア的な世界をイラストで表現したSWAVさんと、ディレクターを務める佐雪隼に制作秘話を聞いた。

interview = Katsuyoshi Tanaka


PROFILE ―

SWAV(すわぶ)

キャラクターデザインやコンセプトアート分野で活躍する日本のイラストレイター。ゲーム『テイルズ・オブ・アライズ』の衣装デザインや『アークナイツ』のキービジュアルなどを担当。

佐雪隼(さゆき しゅん)

ビジュアルアーツ所属のディレクター。

STORY ―

人類が滅び行く世界に生きる運び屋ジュード・グレイは、謎の老人から人類救済の鍵となるアンドロイドの少女を連れてくるように依頼される。やがて、とある遺跡で目的の少女・フィリアを発見したジュードは彼女を起動させるのだが、なんとジュードはフィリアから親と認識されてしまって……。

ジュードを親として好意を向けてくるフィリア。一方のジュードはその好意を邪険に受け流して……。こうして人間のジュードと、アンドロイドの少女フィリアの長い旅がはじまった――。

運命的なタイミングで
仕事のオファーがきました


――まずは読者にお二方の紹介をしておきたいので、軽く自己紹介をお願いできますか?

佐雪 はい。ディレクターの佐雪隼と申します。『終のステラ』ではディレクターをしておりまして、企画やストーリーの立案なども私がやらせていただきました。

SWAV はじめまして、SWAVと申します。ふだんはキャラクターのデザイン、キービジュアル、コンセプトアーティスト系のお仕事をさせていただいていて、『終のステラ』では全キャラクターデザインやCG、そしてキービジュアルなどのビジュアル周りを担当させてもらいました。

――SWAVさんはゲームでのイラストは経験あったのですか?

SWAV 最近だと『テイルズ・オブ・アライズ』(※1)のDLCコンテンツで衣装を描かせていただいたりはありましたけれど、メインでというのは、はじめてかもしれませんね。

――佐雪さんはどのような経緯で、SWAVさんを起用しようと思われたのですか?

佐雪 『終のステラ』は、企画を立案したときからSF色の強い作品になるであろうことはわかっていたので、イラストレイターさんもSFに明るい人がふさわしいだろうといろいろ探していたんです。そんなときSWAVさんのイラストを拝見しまして、すぐにお声掛けさせていただいたという流れです。

SWAV 僕のどんな作品を見られたのですか?

佐雪 他社さんの作品だったので詳細は伏せますが、じつはごにょごにょ……という作品で。

SWAV ああ、なるほど(笑)。

佐雪 SWAVさんのイラストを一枚画としてみたときに、SF映画のテイストが感じられたので、今回の企画にぜひ参加してほしいとお声掛けさせていただいたといった感じですね。

――SWAVさんとしては突然のお仕事の依頼だったと思うのですが、率直な感想はいかがでしたか?

SWAV いろいろな意味でびっくりしました。というのも、ちょうどそのころアニメ『planetarian~ちいさなほしのゆめ~』(※2)を見て、ぼろ泣きしたばかりだったんですよ(笑)。ですからメールにKeyという文字を見つけて「え? あれ? ちょっと待って!?」みたいに本当にびっくりしてしまって……(笑)。さらにそこから企画書を読ませていただく流れになるのですが、そこにはアンドロイドが登場して『planetarian~ちいさなほしのゆめ~』に近いものがありましたし……、運命的なものを感じました。

――自分が泣かされたブランドの作品に、今度は自分が泣かせる立場で関わるのですから、びっくりするのも当然ですよね。

SWAV そうです! その泣きのシーンを想像して現実に引き戻されたんですよ(笑)。もちろんいまおっしゃられたように、画面越しに泣かされたブランドの作品を、今度は自分が作る側に回るのかという不安もありましたし、とにかく第一印象は「びっくりした」でしたね。

――そんな『終のステラ』ですが、シナリオが田中ロミオさんということで、一筋縄ではいかない物語が予想されます。こちらはどのようなお話になるのでしょう?

佐雪 シンギュラリティマシンという大型の機械が闊歩し、人類は細々と生活することを余儀なくされた世界が舞台となっています。主人公のジュードは運び屋で、彼は謎の老人から人類救済の鍵となるAe型アンドロイドの少女を連れてくるように依頼されます。そのAe型アンドロイドというのがヒロインとなるフィリアになっていまして、物語は基本的にジュードがフィリアをその老人の下に送り届けるというロードムービーとなっています。

――ロードムービー。つまりふたりが旅をしていくお話になるのですね? ということは町をはじめとする景観の変化も楽しめそうな予感がします。

佐雪 そうなんですよ。本作は、キネティックノベルとは思えないほど、背景枚数が多くなりそうです(笑)。

――お話にあったシンギュラリティマシンというのは、おそらく人類の敵側となる機械のことだと思うのですが、もうひとつ「Ae」という聞きなれないワードがありました。「Ae」とは造語でしょうか? また、いわゆる「AI」のことなのでしょうか?

佐雪 「Ae」は「アーティフィシャル エゴ」と言って“人工自我”として、田中ロミオさんが言葉を作られました。「AI」とは別物と考えてもらったほうがいいかもしれません。AIは「アーティフィシャル インテリジェンス」といって、ご存知のとおり人工知能です。またそのAIが制御しているものが、シンギュラリティマシンになります。この辺に関してはかなり説明が難しいのですが、田中ロミオさんが作中でしっかりと触れてくださっていますので、ぜひプレイをして納得していただきたいなと思っております(笑)。

――なるほど。では現時点では「より人間に近いアンドロイド」という認識に留めておきましょう。

佐雪 そうですね。プレイしていただければ、『planetarian~ちいさなほしのゆめ~』のほしのゆめみとは違った存在なのだと、理解してもらえると思います。

――いろいろと聞きたいことが多いのですが、佐雪さんは口が固そうですので……SWAVさんはイラストを描く都合上、すでに物語を読んでいるのですよね? そこでSWAVさんに佐雪さんがヒヤッとするレベルでの感想をうかがってみたいと思います。

SWAV あははは、ダメだったらカットしてくださいね(笑)。個人的な感想ですが「この困難は必要なものなんだろうな」と連想するシーンがあるのですが、そこはわかっていてもやっぱり辛い気持ちになってしまいましたし、ジュードやフィリアが旅をする世界はシンギュラリティマシンに支配されていてどこか寒々しい。……と、これだけ聞くと冷たい雰囲気を想像してしまうじゃないですか? でもフィリアというアンドロイドの少女が、人間より人間じみていて温かいんですね。そんなフィリアと主人公のジュードが荒廃した世界を旅していくわけなんですけれど、そこで僕が感じたのが「繋がり」でした。このワードが大事なのかなと感じまして、それは人と人との交流という意味だけではなく、種族を超えた絆も含めた繋がりを指していて……と、簡単に感想を言わせていただきましたが『終のステラ』は一筋縄ではいかないといいますか、なかなか簡潔に説明することができないくらいすごいお話でした。

――運び屋であるジュードにとってフィリアは最初「荷物」なんですよね? おそらくそんな関係からはじまるのではないかと想像するのですが、一緒に旅をするうちにその関係が変わっていく。そんな感じでしょうか?

SWAV やっぱりそう想像しますよね? しかしそこが「一筋縄ではいかない」といった部分に繋がっていたりもして、読み進めていくと“そう簡単にはいかないぞ”という展開が待っていたりもするんですよ(笑)。

佐雪 あははは。たしかにそうですね。

――ということは「一筋縄ではいかない物語」が楽しめる作品と。そしていま話に出た主人公のジュードと、ヒロインのフィリアですが、キャラクター資料によるとフィリアは見た目的には12歳くらいの少女。一方のジュードは34歳。かなりの年の差になります。

佐雪 先ほど『終のステラ』はロードムービーと紹介しましたが、もうひとつ擬似家族モノという側面もありまして、そこでふたりを父と娘に見えるラインの設定にしたいなと考えた結果、34歳と12歳という年の差を付けました。当然作中でも親子関係的な部分もフィーチャーされていくのですが、これ以上話すと言ってはいけないことも話しちゃいそうなので、「気になる人はぜひプレイをして確かめてください」という逃げ言葉で締めさせてもらいます(笑)。ただ、もう少しだけ紹介してしまうと先ほどもチラッといいましたが、実はAeはAIに干渉できる特別な存在だったりもして、人間では感じられないAIそれぞれの性格もなんとなくわかってしまうんですよ。しかもAeは「アーティフィシャル エゴ」ですので自我があるために成長もしてく。ここに物語のひとつのキモがあったりもします。

――成長というのは知識面だけでなく心もということでしょうか?

佐雪 はい。もちろん、いろいろなできごとを経験していくのが前提ですけれどね。というのもフィリア以外にも当然この世界にはAeが存在しているんですけれど……。うーん、フィリアはジュードと出会えましたよね? でも出会えなかったAeも当然ながらいるわけで……。ああ、やっぱりこの話はここでやめておきましょう(笑)。

SWAV あははは。


老人を描くのははじめてでしたが
予想以上に楽しく描けました


――キャラクタービジュアルも公開されましたが、SWAVさんがシナリオを読んで、真っ先にインスピレーションが湧いたキャラクターは誰でしたか?

SWAV やはりヒロインのフィリアでした。くよくよする姿も多く、それでいて捕まえていないと、どこかへ飛んでいってしまいそうな綿毛のような存在の女の子だったので、シナリオを読んでいるときから、早くイメージに起こしたいなと思えた女の子でした。そんな彼女は「綿毛」「自由」「鳥」「花」などをイメージしながらラフを描き、すぐに佐雪さんにお送りした記憶があります。

――主人公のジュードいかがでしたか?

SWAV フィリアとは逆にめちゃめちゃ難しかったですね……。僕はミリタリー系のファッションが好きなのですが、『終のステラ』の時代や背景を考えたら、ファッションも今とは変わってくるわけじゃないですか? ましてや人類は生存を第一に考えているような過酷な世界ですから、人類もおしゃれとは真逆の機能性に特化している服装になっているのではないかなと思うわけです。しかしそうして世界観に沿って機能性に特化した服装にしてしまうと今度はファッション性に乏しくなるし、色も自由に使えなくなるというビジュアル面での葛藤が生まれるんです。このように世界観とファッションの融合……、ジュードでいったら機能性に微量なファッション性をどう融合させていこうかという部分がすごく難しかったですね。

――今のお話をふまえて、ジュードのビジュアルを確認してみたら、たしかにサバイバルしていそうな服装ですね。何か参考にしたイメージはあったのでしょうか?

SWAV 登山グッズ系が多かったですね。エベレストの登頂を目的にしたサバイバルアイテムなどを調べました。

――それでいて微量のファッション性が、上着のブルーのラインに反映されているように感じます。

SWAV ありがとうございます。それにもいちおう理由づけがあったりもして、僕独自の設定になるのですが、あのラインはシンギュラリティマシンの影響を薄める塗装というかパターンといったイメージで描かせてもらいました。光学迷彩……とまではいかないけれど、見つかりにくくなる服みたいな感じです。

――公開されているビジュアルには、ほかにも車椅子に乗った謎の老人「ウィレム・グロウナー」と、褐色の少女「デリラ」がいますので、SWAVさんにはウィレムの紹介をお願いします。

SWAV 彼が車椅子に乗っているのは、最初にいただいた設定にありましたが、それでもただ単純な車椅子に乗っていてほしくはないとの思いから、厳つい車椅子を描かせてもらいました(笑)。イメージとしては生命維持装置なども完備している「フル装備車椅子」です。じつは僕自身老人のキャラデザをしたのはこれがはじめてだったので、最初はどうアプローチしていけばいいのか悩んだのですが、これはすぐに解決しまして描いていて楽しいキャラクターでした。

佐雪 そうだったんですね。

SWAV ええ。老人というのは少女……つまりウィレムはフィリアに近いとわかったんですよ。

佐雪 どういうことです?

SWAV たとえば少女の場合、目の大きさや顔の輪郭をどれくらいに描くか――などでキャラクターが出来上がっていくのですが、老人の場合はその対になる存在だったので、描き方のアプローチが似ていたという意味ですね。手なども肌と筋が透けている感じを意識して描いていったら意外と楽しく描けました。

――「少女をかわいく見せる」の逆を意識すると、厳しい老人になるとは目から鱗です。ただ……、たしかメカニックデザインは、からますさんが担当しているはずですが、車椅子に関してはSWAVさんが描かれたのですね?

SWAV キャラクターの一部なので、そこは僕の担当ですから。この車椅子だけでなくキャラクターに密接に関わってくる部分は、全部僕が描かせていただいていて、たとえばジュードのライフルも僕がデザインしています。

――そして残るはデリラですが、こちらはいろいろとありそうな少女なので、佐雪さんから紹介していただきましょう。

佐雪 うーん、そうですね。めちゃめちゃ踏み込んだ紹介をしますと、彼女もフィリアと同じくAe型のアンドロイドになっていて、じつはデリラもフィリアと同じくかつて運び屋と出会い、その人間を父と慕っている……といった感じです。そしてそんな共通点の多いデリアの存在は、フィリアの成長の鍵となり……と、やっぱりこれ以上紹介してしまうとユーザーさんの楽しみが半減してしまいそうなので、この辺にしておきましょう(笑)。


映画的な見た目を目指して
イラストの色合いも考えています


――『終のステラ』ですが、最初に発表されたプロジェクトタイトルは、「Project:PORTER」でしたよね。それが『終のステラ』になった経緯は?

佐雪 運び屋が主人公のお話だったので、皆さんにわかりやすいよう「Project:PORTER」と紹介していましたが、僕としてはタイトルにPORTERを使うつもりはなかったんですよ。そんなこともあり、最初は『終(おわり)のステラ』というタイトルにする予定だったんです。でもよくよく考えてみると他社さんにとても似たようなタイトルの作品がありまして、さてどうしようかなと困っていたところ、SWAVさんが「終(つい)のステラならどうですか?」と助言をいただき、開発サイドも「いいじゃん、それ!」と乗り気だったのでいまのタイトルが生まれました。

――読者的には一本の作品が、どうやって誕生して形を成していくのかも興味がある部分かと思うのですが、この『終のステラ』の企画はどのようにして生まれ、動き出したのでしょう?

佐雪 まずKeyで「キネティックノベルに力を入れていこう」という方針が打ち出され、そこから『LOOPERS』(※3)が生まれ、そしてあとを追うように『LUNARiA』(※4)『終のステラ』の企画が立ち上がっていきました。この3作品は基本は、ディレクターが草案を作り立案して、企画が動き出すといった流れで誕生しています。そして僕が立案した『終のステラ』は、いま言ったようにProject:PORTER、つまり「運び屋がアンドロイドを運んでいく」という大まかな発想から企画を組み立てていきました。イメージしていたのは『オズの魔法使い』(※5)『バック・トゥ・ザ・フューチャー』(※6)のような“行って帰ってくる物語”に、ボーイミーツガールを融合させた物語です。そして企画を起こしてみると、やはり最初に想像していたとおりSF色が強い作品になりそうだったので、そのあたりを膨らませてくれつつ、より重厚な世界に仕上げてくれそうな人は誰かと考えたときに、田中ロミオさんの名前があがりました。そこからロミオさんに打診させていただき、詳細なプロット、そしてシナリオが出来上がっていきます。作品のテーマがかっちりと決まったのも、このロミオさんのプロットが正式に確定したときになります。

――田中ロミオさんが加わることで、物語もかなりブラッシュアップされていったと想像するのですが、何か印象的なエピソードは何かありましたか?

佐雪 ロミオさんのSFに対する含蓄というか、事象に対する理由付けがすごいんですよ。僕が提案した突飛な設定であっても、ロミオさんの手にかかると納得せざるを得ない流れになっていたりして、物語の説得力が格段に上がったところは印象的でしたね。

――そして、そこにSWAVさんが加わるわけですね。ではあらためて、SWAVさんがこだわったポイントなども聞いておきたいと思います。

SWAV 近未来SFに合う色で、『終のステラ』では全体的にジェードグリーン(※7)のフィルタをかけるなど、映画的な見た目を目指して描かせていただきました。“キネティックノベル(映画を見ているような小説)”と銘打っているシリーズですし、なにより僕も映画っぽい絵や作品が好きなので、そのようなアトモスフィア(※8)を感じられる絵というのは最初から考えていました。そのため全体的に見てもらっても、映画を見ているような満足感を得られるクオリティと詰めたデザインになっていると思います。なので皆さんには、ゲームをプレイし終えたときに、映画を見終わったような余韻を感じてもらえたのならうれしいですね。

――たしかにKey作品としては珍しい色合いに感じました。

佐雪 キネティックノベルシリーズは、Keyブランドの作品ではあるのですが、ある程度の挑戦もしていいよ、というところからはじまっているプロジェクトでしたので、少しだけ挑戦させてもらいました。ただ僕も往年のKey作品が好きでこの会社に入ったもので「Key作品といえばこうだろう」という声があるのもわかりますし、僕としてもそういったイメージが強いだけに、『終のステラ』でどこまでこれまでの固定観念からはみ出していいのか悩みました。それでもせっかくのハードSFですし、それでいて“泣ける”という部分はしっかりと根幹において作っている作品でもあるので、色合いに関しては多少これまでの作品とは異なっているかもしれませんが、問題はないだろうと挑戦させてもらいました。

――SWAVさんとの間でも多くのやり取りがあったのでは?と、想像するのですが、印象に残っているエピソードはありますか?

SWAV CGやキャラクターについて、たくさんありますが、なかなかお聞かせできることは少なくて……。佐雪さん、どうですか?(笑)

佐雪 あははは。ひとつあげるなら、僕はSWAVさんが上げてくださるイラストのテイストや構図がめちゃめちゃ好きなんですけれど、一方でKeyとしてこれまで美少女ゲームを作ってきたノウハウを優先せざるを得ないときがありまして……。具体的にいうとキャラクターを全面に出す構図に直してほしい、とリテイクをお願いさせていただくこともありました。ただブランドとしてはリテイクをお願いしているのですが、僕としては最初にあげてくださった絵から、SWAVさんが意図していることがバリバリと伝わってくるんですよ。そんなふうにブランドとSWAVさんの間に立つ僕としては、とても苦しい決断を何度も迫られたことが印象に残っています。どちらかが間違っているわけではなく、どちらの言っていることも正しかったりするのが、また苦しさを倍増させるんですよ。

――「美少女ゲーム的な見せ方」と「映画的な見せ方」の板ばさみということですね。これに対してSWAVさんはどのような反応を?

SWAV 僕としてもKey作品は大好きですし、開発室の意図もまったくそのとおりだなと感じていました。ただ、これは僕の性格かもしれませんが、そういった伝統があるお仕事のご依頼をいただくと……「ここで異色を混ぜましょう!」とやっぱり挑戦したくなっちゃうんですよ(笑)。だから今回も、映画的なイラストや構図を提案させていただいているんですけれど、当然「フィリアがヒロインという見せ方が大事だから」と、リテイクを出されてしまうわけです。そんな流れがあって「じゃあ意地でも映画的な構図と、美少女ゲーム的な見せ方を融合させてやろうじゃないか!」とリテイク作業に移るわけです(笑)。ただ、そこがまたおもしろいポイントにもなっているんですよね。

――おもしろい、ですか?

SWAV 美少女ゲームであるのに、世界観やメカニックデザインは映画的で物騒。かわいい子がいるのに、その背景はディストピア。このギャップがよりキネマティックを演出するのですが、さらにそこでひとつの物語が繰り広げられていておもしろいなと感じたんです。ちなみに本作のイラストを描くにあたって『インターステラー』(※9)などの映画を参考にさせてもらったのですが、ああいった重厚な世界を、ノベルゲームに落とし込めたら、より新鮮に世界を楽しんでもらえるんじゃないかなと思っています。

佐雪 僕としてもSWAVさんからは、とてもいい刺激をもらっていて、美少女ゲームなのに見た目は映画的な作品。そこを上手に融合させていくことでいい作品が出来上がっていくと感じていますし、僕自身もゲームの完成形を見るのがとても楽しみです。


『終のステラ』は音楽でも
新しい挑戦をし続ける


――スタッフ面でいうと楽曲面も気になりますが、こちらはどのような陣容になっているのでしょう?

佐雪 これまでKeyとして依頼したことのない、はじめての人にお願いしようということになりまして、ボカロPでも有名な針原翼(※10)さんにご依頼させていただきました。決め手は何より泣き曲が作れる人、というのが大きかったですよね。ではなぜ針原翼さんだったのかというと、じつは僕のこれまでの人生の中で、曲を聞きながらそこにある物語の背景を思い浮かばせるような楽曲はなかったかと振り返ったときに、出てきたのが針原翼さんが作った『蛍 -firefly-』だったんです。そこでまず社内でプレゼンをしたらOKが出たのでお願いをして……と、かなりトントン拍子で話が進んでいきました。進捗状況も順調で、オープニング曲やエンディング曲は完成済み。とても素晴らしい楽曲に仕上げていただきましたので、ぜひともお楽しみにといったところです。

――BGMに関しても針原さんが担当されているのでしょうか?

佐雪 いえ、『Deemo』(※11)などに楽曲を提供しているIce(※12)さんにお願いしています。サウンド的にもSF世界にマッチしたものになっていますし、サントラCDなども考えていますので、音楽面からも『終のステラ』の世界を楽しんでいただけたらうれしいなと思っております。

――Iceさんといえば海外の作曲家ですよね?

佐雪 ええ。僕の印象だとKey作品というのは、ピアノの音色が美しく印象に残るイメージがあったので、そこは外さずにSFの世界にそぐうコンポーザー(※13)を探していたときに思い出したのが『Deemo』でした。そこからIceさんにたどり着きまして「この音、いいのでは!?」とご依頼させていただきました。Iceさんは日本語ができる方なので海外ならではの苦労もそれほどなく、メールも日本語ベースでやり取りができましたのでコミュニケーションなどに関してもまったく問題はありませんでした。

――楽曲面は納品済みというお話ですが、ゲーム全体の進捗状況はどうなっていますか?

佐雪 このインタビューが公開されるころには、素材も揃いはじめてる予定で、その素材をゲームに組み込みながらデバック作業がはじまっているのではないでしょうか? 現状では2022年の4月末くらいにリリースできるかな、といったスケジュール感です。

SWAV 僕もすでにラフは出来上がっていているんですが……。

佐雪 あははは。

SWAV いや、その先ほどいったように映画的な仕上がりの絵にするには、リッチでなくてはならないんですよ。それゆえ清書に時間がかかるというか……。僕は構図を3Dで作っているので、この構図はダメかなとなったらまたいちから作りなおさなければならないので……。ただそれでも中身がない画にはしたくはないので、年末にかけてしっかりと詰めて仕上げていきたいなと思っております。

佐雪 あの……、体調だけは崩さないようにご自愛ください(笑)。

――おふたりのお話を聞いてますます作品の完成が楽しみになりました。

SWAV いままでのKey作品の流れをふまえつつ、『終のステラ』らしいビジュアルを披露できたらいいなとがんばっているところです。シナリオでも泣ける作品ですが、僕としてはビジュアルでも皆さんを泣かせたいと思います!

佐雪 田中ロミオさんの描く重厚な世界観とSWAVさんが生み出すスタイリッシュなイラスト。そして音楽やメカなどそのすべてが大変高いクオリティに仕上がっていて、なおかつそれぞれがピースとしてうまくはまっている作品に仕上がっていると自負していますので、上質な映画をたしなむ気持ちで『終のステラ』をプレイしていただきたいと願っています。


(※1)『テイルズ・オブ・アライズ』

2021年9月9日にバンダイナムコエンターテインメントより発売されたゲームソフト。鉄仮面で顔を覆われた青年と、同族から追われる少女の出会いから物語がはじまる。

(※2)『planetarian~ちいさなほしのゆめ~』

ゲームだけでなくアニメ化もされたキネティックノベル作品の第1弾。戦争により荒廃した近未来の廃墟を舞台に、アンドロイドのほしのゆめみと人間の男・屑屋の交流を描いたSF作品。

(※3)『LOOPERS』

2021年5月28日にリリースされた竜騎士07さんがシナリオを担当したキネティックノベル作品。宝探しを趣味とする少年タイラが同じ日をループし続ける世界に迷い込みながらも、仲間と一緒に脱出を目指して奮闘する。

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(※4)『LUNARiA』

2021年12月24日にリリースされたキネティックノベル作品。VRバトルアクションレース「Skyout」の天才プレイヤーT-BITと“LUNAR-Q(るなきゅん)”と名乗るAIアバターとの不思議な交流を描いた月と地球を繋ぐ遠距離ラブストーリー。

LUNARiA 紹介ページへ

(※5)『オズの魔法使い』

「マザー・グースの物語」などを生み出したライマン・フランク・ボームによる児童文学作品。竜巻に巻き込まれ不思議なオズの王国へと飛ばされてしまったドロシーと飼い犬のトトの旅が描かれている。

(※6)『バック・トゥ・ザ・フューチャー』

1985年に公開されたアメリカのSF映画。高校生のマーティは未来を変えるためにドク(エメット・ブラウン博士)の作った車型タイムマシーン「デロリアン」に乗って過去へと飛ぶのだが、そこで彼の両親と出会ってしまい……。

(※7)ジェードグリーン

日本語だと「翡翠(ひすい)色」と書き、文字どおり翡翠のようなくすんだ緑色のことを指す。RGB値は「R:63 G:152 B:119」でHEXは「#3F9877」。

(※8)アトモスフィア

直訳すると大気、空気、または大気圏。ここでは環境的な色合いや空気感を指す。

(※9)『インターステラー』

2014年に公開された近未来SF映画。大規模な異常気象により人類が滅亡の危機に晒されている世界で、元宇宙飛行士クーパーが人類の新天地を求め人工知能ロボットTARSを乗せた探査船レインジャーで地球を後にするスペーストラベル作品。

(※10)針原翼

ロックバンドグループROZEO EMBLEMの活動と並行しながら、VOCALOIDを使用した楽曲を制作するアーティスト。代表作は2012年に動画投稿サイトへ投稿したVOCALOID楽曲「ぼくらのレットイットビー」。

(※11)『Deemo』

台湾のソーシャルゲーム開発会社「Rayark」が開発したスマートフォン用音楽ゲーム。そのために参加アーティストも台湾に多いが、日本からも植松伸夫さんが率いるバンドEARTHBOUND PAPASや、小林信一さん、Mili(ミリー)などが参加している。

(※12)Ice

海外の作曲家。音楽ゲーム『Deemo』では数々のプレイヤーをふるいにかけたという「entrance」などを作成した。

(※13)コンポーザー

作家、または作曲家。ここでは広義で「サウンドクリエイター」という意味で使っている。