Special Talk Session #61
『聖女様はイケメンよりもアンデッドがお好き?!~死霊術師として忌み嫌われていた男、英雄の娘に転生して〝癒しの聖女″となる ~』スペシャルインタビュー
原作者・ばーど×ゲーム化ディレクター・箕崎准
ビジュアルアーツが主催している新人登竜門『キネティックノベル大賞』第1回開催のノベル&シナリオ部門にて、大賞を受賞した『聖女様はイケメンよりもアンデッドがお好き?!~死霊術師として忌み嫌われていた男、英雄の娘に転生して〝癒しの聖女″となる~』が、2022年に書籍化とキネティックノベルとしてのゲーム化が決定! そこで今回は作者のばーどさんと、ゲーム化のディレクションを担当する箕崎准さんにお話を聞いた。
interview = Katsuyoshi Tanaka
photo = Yoshikuni Toyoizumi
PROFILE ―
ばーど(第1回ノベル&シナリオ部門大賞受賞者・作者)
小説投稿サイト「小説家になろう」にて多くの作品を投稿している。『聖女様はイケメンよりもアンデッドがお好き?!~死霊術師として忌み嫌われていた男、英雄の娘に転生して〝癒しの聖女″となる ~』で、第1回キネティックノベル大賞のノベル&シナリオ部門にて、大賞を受賞。箕崎准(ゲーム化プロデューサー)
ライトノベル作家『ハンドレッド』シリーズなど。シナリオライターやアニメ脚本家、ゲームディレクターなど幅広く活動。『聖女様はイケメンよりもアンデッドがお好き?!~死霊術師として忌み嫌われていた男、英雄の娘に転生して〝癒しの聖女″となる ~』ではキネティックノベルとしてのゲーム化ディレクターを務める。大賞受賞の連絡がきたときは、嘘だと思っていました
――『聖女様はイケメンよりもアンデッドがお好き?!~死霊術師として忌み嫌われていた男、英雄の娘に転生して“癒しの聖女″となる~』(以下『聖女様はイケメンよりもアンデッドがお好き?!』)のキネティックノベル大賞での大賞受賞おめでとうございます。まずは受賞を知ったときのお気持ちはどうでしたか?
ばーど ありがとうございます! 間違いなくめちゃめちゃうれしかったんですけれど、その一方でそれが何かの間違いだったり、あとで「ダメになりました」と言われるんじゃないかなと、心のどこかで思っている僕もいました。受賞結果がホームページに掲載されるまで、どこか信じられない気持ちもありましたね。むしろ結果が出てからも「これ、嘘じゃないよな……」と心配していたくらいです(笑)。
――そして今回はゲーム化のディレクションを担当する箕崎准さんにも同席していただいております。よろしくお願いいたします。
箕崎 よろしくお願いします。
――ではさっそくですが、ばーどさんへの質問となります。キネティックノベル大賞(※1)への応募のきっかけはなんだったのですか?
ばーど もともとは趣味で小説を書いていて、そのお話を「小説家になろう」(※2)に投稿していたのですが、書いていくにつれ「自分の文章能力ってどのくらいなんだろう?」とプロの方々の評価を聞いてみたい……と感じるようになりました。ですのでキネティックノベル大賞以前にも賞レースにはいくつか応募していまして、最初のころは1次選考を通過するかしないかくらいが多かったのですが、やがて2次や最終審査まで残るお話も出てきて、そこでやっと人様に見ていただける文章が書けるようになってきたのかなと感じるようになってきました。
――賞が欲しいから応募するのではなく、いまの実力が知りたいから応募するといった感じですか?
ばーど それに近いかもしれませんね。もちろん大賞が獲れたらいいなとは思っていますよ。でもそれよりは「最終審査まで残れたから、ちゃんとした文章が書けていたのかな? よかったな」という気持ちでこれまではやってきました。それに大賞を獲得するというのは、賞レースのテイストやレーベルさんの好みなどの問題もありますから、賞を狙って書きにいっていない僕としてはあまり意識するところではなかったのかもしれませんね。
――ただ、今回はそれが違ったとか……。
ばーど はい。最初は漠然とですが『聖女様はイケメンよりもアンデッドがお好き?!』は、僕自身キャラクターや世界観などいろいろなビジュアルを想像しながら書いたお話だったので、キネティックノベルやビジュアルノベルという体裁に向いているんじゃないのかなと感じていました。ただ……偉そうなことを言ってしまいましたが、じつはキネティックノベル大賞を募集しているビジュアルアーツさんのことはそれほど知っていたわけではなかったんです(笑)。どのノベル大賞でも応募する前に、どんな会社が企画しているものなのかを調べています。今回「ビジュアルアーツ? よく知らないな……」と思っていたのですが、調べたらなんとKeyさんじゃないですか! Keyさんは当然よく知っていて、そんな会社が賞レースを企画しているのはすごいなと。しかもゲームになれば先ほど言った絵だけではなく、音楽も声もつくわけですから、これはすごいと応募させてもらったんです。
――ちなみに小説を書き始めたきっかけみたいなところも訊いていいでしょうか? 「小説家になろう」に投稿しているということは、サイト名通り、小説家を目指してとか?
ばーど いえ、小説家になれるとは、いまでもぜんぜん思っていないですね。以前、出版社の小説大賞に応募しましたが、1次審査で落ちていますので。ただ物語を書くのは好きでしたし、「小説家になろう」の存在を知る前は自分のホームページに小説を載せたりもしていましたので、趣味で小説を書いているという感覚ですよね。ちなみに「小説家になろう」を知ったのは、スーパー銭湯でのことでした(笑)。
――……え!? 想像の斜め上をいくワードが出てきましたが?
ばーど スーパー銭湯の休憩室でアニメ『ログ・ホライズン』(※3)が流れていたんです。それが「小説家になろう」というサイトに投稿されていた作品だと知り、そんな投稿サイトが存在するのか!とすぐに検索して発見したという流れです。ちなみに最初に投稿したお話は、先ほどの1次審査を通らなかったやつを改稿したもので、当時は……1日10アクセスくらいだったかな? でもこれってすごいですよね。誰も知らないホームページにこっそり書いていたお話が、「小説家になろう」に投稿したら1日10人も見てくれているんですよ! しかも書き終えたところでさらに評価が上がりまして、とにかくずっとうれしいが続くんですよ。そんなこんなで「ここに投稿すれば見てもらえる!」と火がついてしまい、今でも書き続けているわけです。
――その執筆活動の方法なのですが、これが今どきといいますかなんというか、ばーどさんはすべてスマホでされているとの噂を聞きましたが?
ばーど はい、『聖女様はイケメンよりもアンデッドがお好き?!』だけではなく、投稿しているお話はすべてスマホです(笑)。これが意外と便利で、朝起きてすぐだとか、電車などの移動時間、休憩時間、寝る前など……好きなときに、思いついたことをパッとメモできるのでいいんですよ。指への負担がすごいのは弱点ですが、スマホだけで200万字以上は書いていますね。最近はほとんどキーボードを使ってません(笑)。
――個人的には驚きの発言だったのですが、長らくこの業界にいらっしゃる箕崎さんは、スマホで作業する作家さんの話を聞いたことがありましたか?
箕崎 趣味やイベント参加などで日本中を飛び回っている作家さんの中に、スマホやタブレットを使って執筆している……という話を耳にしたことはありますね。もちろん基本はPC作業ですけれど、旅行中はスマホを使って……みたいな方もいるみたいですよ。
ばーど たしかに僕もPCで作業したほうがいいとは思うんですけれど……、まだまだしばらくはスマホで作業していると思います(笑)。
――スマホ執筆作家生活はまだしばらく続くのですね。
ばーど 作家生活ですか……。そこなんですよね。こうして大きな賞をいただき、今もいろいろと褒めていただいてはいますが、私自身はまだまだ素人だと思っていますので、作家と名乗るなんておこがましいですし、自分が書いた文章も「作品」と言い切れずに、「お話」と言葉を濁しているくらいでして……。それでも僕のお話を読んでよろこんでくれる読者さんもいらっしゃるわけで、そういう人たちに楽しんでもらえるお話を書きたいなと試行錯誤していった集大成が『聖女様はイケメンよりもアンデッドがお好き?!』だったのかもしれません。だから今回大賞をいただけたのは、僕のお話を楽しんで読んでくれた皆さんのおかげです。
――今後はその『聖女様はイケメンよりもアンデッドがお好き?!』が書籍化も決定し、ゲームにもなるのですから、作家と名乗る場面も増えてきますよ?
ばーど 繰り返しになってしまいますが、それがまだ信じられないんです……(笑)。
陰キャな死霊術師(ネクロマンサー)の男が、誰からも慕われる美少女に転生する物語
――ばーどさんの人となりを知ってもらえたところで、ここからは『聖女様はイケメンよりもアンデッドがお好き?!』についてのお話を伺っていこうかと思います。ユーザー的には「どのようなお話か?」がいちばん気になるところだと思いますので、まずは大まかな世界観の紹介からお願いできますか?
ばーど ひとことで言うと前世で陰キャでぼっちだった死霊術師の男が、のちに聖女と謳われることになる美少女に転生するお話です。転生はするんですけれど、価値観は前世の死霊術師のまま変わっていないんですよ。そのために勘違い系のやり取りが生まれたりして、やがてさまざまな人を巻き込んでいくといったコメディタッチのお話になっています。
――死霊術師的な思考からの言葉が、いいように解釈されて聖女のように崇められるといった会話劇が、すれ違いコントのようでユニークでした。
ばーど 僕としても人と人との会話でおもしろいところは「認識のズレ」だと思っているので、その点は強く意識して書いていました。
――死霊術師が聖女に生まれ変わるという部分も真逆のおもしろさを感じたのですが、この発想はどこから出てきたのでしょう?
ばーど 最初は「アンデッド系のお話を書きたい」というところから始まって、じつはアンデッドがアイドルをやるお話にするつもりだったんです。これはおもしろい展開になるぞと! ただ、原稿に取り掛かる前に毎回テーマがほかの作品と被ってしまわないようにと調べるのですが、そうしたら――。
――某ゾンビアイドル系の作品があったと(笑)。
ばーど そうなんです! その時点でそのプロットはボツにしました。ただ一度作った設定は、なかなかスパッと捨てきれるものじゃないんですね。そこで設定を見直していたら、そのアンデッドアイドルの中に元聖女様の女性がいたんです。個人的にもギャップある設定が気に入っていたので、ならば彼女を使って「死霊術師の男が、聖女として転生する」というお話を書いてみようと生まれたのが『聖女様はイケメンよりもアンデッドがお好き?!』だったんです。
――そのような経緯で、本作ヒロインのユリィシア・アルベルトが生まれてきたわけですが、ほかにもそのユリィシアにつき従う狼獣人のウルフェロス・ガロウ(以下ウルフェ)、ヴァンパイアのネビュラなどが登場しますね。簡単に各キャラクターを紹介していただけますか?
ばーど まずユリィシアは、聖女ですので攻撃系はからっきし。そこで「聖女様」を守る「剣と盾」の存在としてウルフェが出てきまして、彼が仲間になるシーンは序盤の見せ場のひとつかなと思っています。もうひとりの従者ネビュラは、そんな「聖女様」の裏の顔(※死霊術師)を知っている側の存在として登場してもらいました。このふたりがユリィシアを引き立てて……というかひどい目にあって、物語が進んでいくという感じです。
――前世と現世、そして外見と中身にギャップがある聖女のユリィシアに、さらに「純粋に忠誠心が高いウルフェ」と「恐怖心から渋々と付き従うネビュラ」という仲間関係のギャップをつけ加えたわけですね。ところで……ばーどさんの作品には、非モテ男が美女に転生するというお話が多い気がしますが、これは何か理由があるのですか?
ばーど それは単純に好きなんです(笑)。いや、真面目な話をしますと小さいころにアニメで『らんま1/2』(※4)を見たことがありまして、その設定が強烈に印象に残っていたんです。ほかにも古典で『とりかへばや物語』(※5)という作品があるんですが、それを元にした作品の『ざ・ちぇんじ』(※6)という小説が好きだったりと、男女が入れ替わるTSジャンル(※7)が好きなんですよ。それこそ異世界で『とりかへばや物語』のテイストを取り入れたお話も書いたことがあるくらいに好きでして、最近でこそTS系の作品も増えてきましたが、当時はかなり少なかったですし書いていても楽しいし、この路線でいけるんじゃないかなという思いがあって、そういったお話が多いのかもしれませんね。
――TSという武器を手に入れたわけですね?
ばーど ただ……それこそ漫画やアニメだとすごくおもしろいんですけれど、小説にするといくら女性が男性口調でしゃべっていても、文字面だけ見るとそれはただの男なんです。なのでいくつものお話を書きながら「この設定はダメか……、ならばこういう手法で……」と試行錯誤をしていった結果、たどり着いたのが今の形かなと。もうひとつは「小説家になろう」あるあるだと思うんですが、一度そのジャンルで読者さんがついたら、次も同じ路線で書かないと離れちゃうんじゃないかなという不安もあって……(笑)。
――『聖女様はイケメンよりもアンデッドがお好き?!』は長年の試行錯誤が、ひとつの形になった作品だったのですね。今回、ゲーム化を行うことになった際、箕崎さんは作品にどのような魅力を感じましたでしょうか?
箕崎 読み手としての感想は、キャラクター同士の会話や流れに『ソード・ワールド』シリーズ(※8)を彷彿とさせるようなTRPGのリプレイ的な要素があり、その上で、古典的なファンタジーのような世界観がしっかりしているかなとはじめに感じました。そして何より「読みやすい」というのが、個人的に惹かれたポイントでしたね。どこを切り取っても楽しく面白いんですよ。魅力的なキャラクターがパロディではない、ちゃんとしたコメディをやっているのでコント的でテンポがいい。
ばーど すごくうれしいです!
箕崎 あとは好きなものを、好きなまま全力で書かれている作家さんはとても魅力的ですよね。文章からその気持ちが感じられたのもよかったなと。
ばーど ありがとうございます! ちなみにその「読みやすい」に関してなんですけれど、じつはこれ「小説家になろう」あるあるなんです。僕も最初のころは導入で「光り輝くこの草原に風が吹き――」みたいな情景描写を入れて書いていたんですが、そうすると途端に皆さん読んでくれなくなるんです(笑)。つまりサクサク話が進んだほうが読んでくれますので、『聖女様はイケメンよりもアンデッドがお好き?!』でも、やはり「文章は短く端的に、場面は極力テンポよく変えていく」といったところを意識して書き上げていきました。
箕崎 それは「小説家になろう」で熟成されたテクニックですね。
ばーど そうなんですよ。そのため、逆に僕は「小説家になろう」の中でしか生きていけないのかな……と思っちゃいますけれど(笑)。
――いえいえ、その「文章は短く端的に」はイラストが入る、キネティックノベルとの相性がバツグンに感じるのですが、箕崎さんもそういう部分も意識したわけですよね?
箕崎 はい。特にキネティックノベルなどのゲーム化の際には、無駄に長い文章は不向きなところがあります。
ばーど そうか、ゲームだと絵があるんですよね。文章で説明する……というより、絵を見せて理解してもらう……という感じですね。いつか自分が書いた小説のキャラクターが絵になればいいなと思い続けてきましたが、それが叶うんですね!
箕崎 しかも声優さんの声も入りますから、軽妙で楽しいやり取りがさらに魅力的になると思います。ファンやユーザーの皆さんには世界観だけでなく、そんな何気ない掛け合いも楽しんでいただければと。
――『聖女様はイケメンよりもアンデッドがお好き?!』では、ほかにもこだわったポイントがあるそうですね?
ばーど 会話以外で言えば場面転換でしょうか。章が変わると場面も変わるのですが、そこで読者に「違う世界の話を読んでるの?」と思わせるくらいガラッと変えようというのは意識しています。街の中にいたと思ったら、次のエピソードでは王宮にしたり、そして学園にしたり……など、これも読む人を飽きさせない工夫のひとつとして行っています。
箕崎 場面だけじゃなく、本作はユリィシアが生まれたときからお話が始まるので、年齢もぽんぽん変わっていきますから、時間的なテンポ感も味わうことができます。
Web版からブラッシュアップされた『聖女様はイケメンよりもアンデッドがお好き?!』
――ではもう少しだけ物語に踏み込むとして、キネティックノベル化される範囲で、ばーどさんが気にいっているシーンがあったら教えてください。
ばーど 今回のキネティックノベル化される範囲としては、「小説家になろう」に投稿されている全てではなく、途中までとなります。その中で、ユリィシアが学園の七不思議を解明するというお話があって、そこに本当のアンデッドを登場させたところがあるのですが、そこが書いていちばん楽しかったですね。シーンを詳細に説明するとネタバレになってしまうので伏せますが、生徒会やユリィシアのほかにも新しいキャラクターが出てきたりもしますので、楽しんでいただけたらうれしいですね。
――作品は「小説家になろう」で掲載されているので、そちらで読むことができますが、書籍化やゲーム化にあたっては改稿されているのですよね?
箕崎 ばーどさんが学園の七不思議の話をしましたので、そのエピソードはゲームとして収録されるのが確定してしまったわけですが……(笑)。ばーどさんも軽く話されましたが、投稿全編をリサイズしてゲームに収めたわけではなく、キネティックノベルサイズに落とし込むために、区切りのいい個所で物語を一旦終わらせてもらいました。ですので、そのあたりの調整といいますか、まずはゲームでエンディングにあたる部分までの改稿はお願いしております。あとは「こうしたら、もっとおもしろくなりそうですが、いかがでしょう?」というアイデアもいくつか提案させてもらい、改稿の参考にしてもらいました。もちろん「ここにこういったCGを入れたいので、文章や展開を少し変えてほしいのですが……」みたいなゲーム化に向けたチューンナップも含めてのお話です。ただ原作に手を入れすぎてしまうと、いままで読んでいたファンから見ると、いい気分はしないと思いますので、そういったことも踏まえて、原作を踏襲してもらっています。それでも「大幅に変わっているじゃないか!」との声があるかもしれませんが……そこは別途書籍が出ますのでそちらで補完してください……と、言い訳も考えています(笑)。
ばーど 書籍の方も、結構手を入れましたけれどね(笑)。
箕崎 それでは「書籍は書籍用に、ゲームはゲーム用にチューンナップされたお話」として楽しんでいただきましょう(笑)。
ばーど 僕としては箕崎さんからいただいた改稿案というのが、本当にそのとおりだと思っていて、感謝の気持ちしかありません。素人の僕には見えなかった新たな視点でのご指摘などもありましたし、これは僕個人の事情になってくるのですが、小説を書いている当時は2日に1本のアップを目指した、スピード重視になっていたので後日に読み直して「このキャラはもっとこうしておけばよかった!」みたいな後悔も出てくるんです。そういった部分も、今回修正させてもらえたのはよかったなと思っています。だから僕からいえることは……「小説家になろう」にアップしたお話をよりブラッシュアップさせたのが、キネティックノベルの『聖女様はイケメンよりもアンデッドがお好き?!』であり、書籍の『聖女様はイケメンよりもアンデッドがお好き?!』になっていますよ、ということですね。
箕崎 ばーどさんから「ここを変えたいんですが、いいですか?」というご意見もありましたね。特に某キャラクターの性格とか……。
ばーど あははは。誰がどう変わったのかは、ぜひWeb版と比べて見つけてみてください。ちなみに僕はゲーム版の方が気に入っています(笑)。ほかにも学園編のとあるシーンもかなり加筆修正をさせてもらったので、それはゲームなり、書籍なりで「こんな感じにしたんだ!」と楽しんでもらえたらうれしいですね。
――コミック化やアニメ化などでよく聞かれる「原作と違う!」というのがあるんですが、本作に関しては原作者のばーどさんがこうしたいと手を加えたお話になるのですから、アナザーストーリーというか、もうひとつの本編みたいなイメージで2度美味しいといえるかもしれませんね?
ばーど たしかに設定を削ってしまうとそれは裏切りになるかもしれませんが、削るのではなくボリュームを増やした感じになっていますので、ぜひプロの皆さんのご指摘によってブラッシュアップされていった『聖女様はイケメンよりもアンデッドがお好き?!』の世界を楽しんでほしいですね。
――箕崎さんにお伺いしたいのですが、ゲーム化ならではの苦労はありませんでしたか? 特に本作は登場キャラクターが多い気がしますが……。
箕崎 明らかに多いですよ(笑)。それこそフルプライスで作ったとしても多いくらいです。それに加えて先ほどばーどさんがおっしゃっていますが、場面転換が多いので必然的に背景美術も多くなっています。ストーリーを効果的に見せるためのイベントCGなどの枚数も、おそらくほかのキネティックノベル作品に比べて多くなりそうです。現状でもキャラクターデザインの数が多く、「これはアニメ作品か!?」と思えてしまうぐらいです(笑)。
ばーど 苦労といえばあれがありましたよね? 世界地図!
箕崎 作りましたねぇ……。あれも、大変でしたね(笑)。
――「ここに街があって、だいたいこれくらいの日数で隣町に……」と考え、文章を書いていたけど、実際に地図に書き出してみると辻妻が合わない……というヤツですね。
ばーど まさにそのとおりで……もう、本当にすみません!
箕崎 いやいや、作家としてはそこはすごくわかるんですよ。書いているときって、言い方はあれですが、まずは適当に書いちゃうものじゃないですか。それであとから気がつくんです。「あれ? この街からここまで3日と書いたけど、ぜんぜん無理じゃない?」って(笑)。そういったやり取りがあって、作中の地図ができあがっていきましたので、もしゲームに地図が登場した場合は、それもスルーしないでじっくりと見てもらいたいですよね。
ばーど 学園の見取り図も同じように手間が掛かっていますのでお願いします!
箕崎 これはゲーム制作サイドの話になってくるのですが、小説では「学園の宿舎」のひとことで済むのに、ゲームだとそこに絵が必要になってくるわけです。宿舎の部屋のサイズは? そして全体はどれくらいの規模なの?と、また宿舎の形状や装飾は? 屋根や壁の色は?……などいろいろな情報が必要になってくるんですよ。そう考えてみると、本当にアニメ1本分くらいの設定資料は作りました。
――作家としては自分が書いたキャラクターたちが絵になるというのも、ひとつのよろこびだと思いますが、その点はいかがでしたか?
ばーど やばかったですね。僕の宝物になりました。今おっしゃられたように、書籍化というのとあわせて自分の書いたキャラクターが絵になるというのがひとつの夢だったので、それこそ泣けてくるくらい感動しましたし、メールでキャラクターの絵が送られてくるたびに「うわー、すごい! ありがとうございます!!」と舞い上がっていましたから。そんなキャラクターに関しては最初は箕崎さんが僕のイメージとすり合わせてくださったんです。
箕崎 たとえばユリィシアに関しては、小説内で美少女と称されていますが、ではどのような感じの美少女なのかというのを「このキャラクターに近い感じですか?」みたいに資料を作成し、確認させてもらいました。これは小説だけにとどまらず、ゲームシナリオあるあるにもなるのですが、どんなアクセサリーをつけているのか、どんな服を着ているのか、髪はどこまで伸びている……などキャラクターの細かい描写がされていることって少ないんですよね。ですので、そこはばーどさんと打ち合わせをしながら作り上げていきました。
――なるほど。先ほどばーどさんが言った「文章は短く端的に」があるために削られた部分を絵で補完しなくてはならなかったと。
箕崎 ただゼロからではなかったんですよ。「ナーロッパ」(※9)という言葉があるように「小説家になろう」でよく使われる世界設定が『聖女様はイケメンよりもアンデッドがお好き?!』にもあてはまる気がして、同じような世界観を持つなろう系の作品のアニメやライトノベルのイラストなどをいくつか見て、服装などの参考にすることができましたので。
ばーど 僕としてはとくに服装はぼんやりと「中世ヨーロッパ的な服」くらいのイメージしかなかったので、いろいろと考えていただき助かりました。じつは今「ナーロッパ」の話が出ましたが、なぜ「小説家になろう」にこの設定が多いのかといえば、読者の人たちは「ファンタジー系の異世界」と紹介すれば、だいたいが冒険者ギルドがある中世ヨーロッパ風の世界をイメージしてくれるからなんですよね。そういった共通したイメージがすでに出来上がっているがゆえに、書き手側としたら説明の文章を省くことができて、それが読みやすさに繋がっているわけです。ただその弊害として服装や装飾品など、キャラクターの細部に関しては、書き手自身もあまり意識していないことが多いんですけれど(笑)。その点がゲームで補完されますので、ぜひ美しいユリィシアさんをその目でも楽しんでもらえたらうれしいですね。
――ありがとうございます。ちなみにスケジュール的なものも教えていただいてもいいですか?
箕崎 はい。現状でシナリオ原稿は完成しています。キャラクターデザイン、背景なども徐々に上がってきている状態で、これからそれらを元にしたCG作成の作業に入っていきますので、そうですね……2022年前半のリリースを目標に鋭意製作中です。また書籍もゲームの発売に合わせて、その前後を目安に発売する方向で動いていると聞いています。
――来年の春ごろにユリィシアたちの物語が楽しめるわけですね。それでは最後はここまで読んでくれた人たちにメッセージをお願いいたします。
箕崎 「小説家になろう」で『聖女様はイケメンよりもアンデッドがお好き?!』を読んでくださったみなさん、そしてばーどさんのファンのみなさんにも満足していただけるようなゲームを作っていますのでよろしくお願いします。美しいイラストと共に作品の世界を楽しんでください。
ばーど そして……、ぜひユリィシア信者になって彼女たちの活躍を応援していただけたらと思っています。みなさん、どうぞよろしくお願いいたします!